MF猶本光、9年目で代表初ゴーーール!キックを磨いた独自の練習法とは?
ゴールまで約20メートル。右足の爪先の内側で擦り上げるように放たれたボールは、しなる弓から放たれた矢のように強烈な弾道で飛んだ。次の瞬間、クロスバーの内側を直撃して地面を叩き、ゴールネットが揺れた。
シュートは相手GKの守備範囲内ではあったが、反応できても、為す術がないスピードだった。
AFC女子アジアカップ初戦のミャンマー戦。ボランチのMF猶本光は、直接フリーキックでなでしこジャパンの3点目を決めた。
この試合は、MF林穂之香の負傷交代のアクシデントによって、前半終了間際から急遽ピッチに立ったが、準備に抜かりはなかった。
2014年に代表に入りしてから9年目に突入し、今大会は3度目のアジアカップとなる。
初得点までの道のりは長かった。猶本はゴールを見届けると、弾けるような笑顔でチームメート一人ひとりとハイタッチをかわした。
「20歳の時に初めて代表の試合に出てから初ゴールまで長くかかってしまいましたが、(体制が変わってから)新しいなでしこジャパンの公式戦の初戦でチームの助けとなるゴールを決めることができてすごく嬉しいです。いつも練習している壁よりも低く見えたので、あまりピンポイントで狙いすぎず、しっかり枠に飛ばせば入ると思っていたので、緊張せず蹴ることができました。チームメートが喜んでくれて、胸が熱くなりました」
猶本は守備力に加え、キック、ミドルシュート、ドリブルと様々な強みを持つマルチプレーヤーだが、国内ではセットプレーのキッカーとしても5本の指に入る選手だ。
キックの名手には、天才肌と言われるタイプや感覚派を自認する選手もいる。だが、猶本はそういうタイプではない。2020年11月の代表合宿の際、決定力を向上させるための練習法についてこう語っていたことがある。
「以前までは、感覚が良くていいシュートが打てても、何が良かったのかが分からなくて同じシュートが打てなかったので、練習方法を変えました。同じような軌道のボールが蹴れるように、正確な(一定の)動作で蹴るようにして、『ボールに対して自分の体をどう持っていくか』を意識しています。セットプレーの場合はボールが止まっているので、後ろに下がる助走などを決めて、その延長線で転がっているボールや浮いているボール(の蹴り方)も考えています」
感覚に頼るのではなく、理論を大切にし、納得いくまでとことん突き詰めるところが猶本らしい。そして、その練習はキックの精度を確実に高めた。所属の三菱重工浦和レッズレディースではセットプレーのキッカーを任され、試合で実践しながら改良を重ね、数多くのゴールを演出。昨季のリーグ優勝にも貢献した。
代表ではそのキックを披露する機会がなかったが、キッカーの重責を任されるだけの努力は重ねてきた。ミャンマー戦をベンチで見守っていた浦和のチームメート、DF高橋はなの言葉がそのことを証明する。
「(ゴールが決まった瞬間は)涙が出るぐらい、本当に嬉しかったです。いつも(チームで)練習が終わってからフリーキックの練習に取り組む姿を見てきたので、努力の賜物だなと思いました」
強烈なシュートを飛ばすキック力やブレない体幹は、2018年から1年半のドイツ挑戦で鍛えられた面も大きいのだろう。一方で、クラブと代表を通じてヨーロッパとアジアの戦いを両方経験してきたからこそ、猶本はアジアカップの難しさも感じている。
「(昨年11月の)ヨーロッパ遠征では、球際で(強くぶつかっても)相手が倒れないからその強度で良かったのですが、アジアでは強くいくと相手が痛がってファウルを取られるシーンを経験しました。そこで『ファウルをするな』と言われたことがあって、調整が必要だなと。球際で強くいくことは大事ですが、(自分たちが)主導権を握っている時に無駄なファウルで相手にチャンスを作られないように、賢くボールを奪う必要があると思います」
ボランチは、なでしこの攻守を司る心臓部だ。韓国や中国、オーストラリアなど、アジアのライバルたちが待つこの先のステージで活躍すれば、道は世界へとつながっている。
体を張った守備か、華麗なアシストか、あるいは鮮やかなフリーキックだろうか。24日のベトナム戦でも、背番号8の輝きが見られるかもしれない。
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