なでしこジャパンの"シンデレラ"塩越柚歩、五輪を振り返る(前編)
三菱重工浦和レッズレディースに所属する塩越柚歩(しおこし・ゆずほ)選手
東京五輪で、残念ながら9年ぶりのメダル獲得には至らなかった、サッカー女子"なでしこジャパン"。だが、このチームでシンデレラガールとして一躍脚光を浴びたプレイヤーがいた。三菱重工浦和レッズレディースに所属する、攻撃的MFの塩越柚歩(しおこし・ゆずほ)選手だ。
はじめての大舞台。強豪国のカナダやイギリスと対峙して痛感させられた、世界の壁。いよいよ開幕となる、日本女子初のプロサッカーリーグ「WEリーグ」への抱負、
さらには、幼少期から今に至るまでのプライベートについて、前編・後編2回に分けて、あますところなく語ってもらった(後編は明日朝、6時配信予定です)。
■ケタ違いだった、イギリスのパワーとスピード
――まず、なでしこジャパンとして出場した東京五輪への道のりについて。メンバー発表の際、"シンデレラガール"として一躍注目されましたが、いざ選ばれたときの気持ちは?
塩越 いやもう、びっくりでした。所属する三菱重工浦和レッズレディース(以下、レッズレディース)では、私が最後の4人目に選ばれて。他の3人(編集部注:FW菅澤、GK池田、DF南)の選手はW杯の経験と実績もあって当然でしたけど、一方の自分はほぼキャリアがなくて、昨年10月の候補トレーニングキャンプで初招集。ずっと当落線上ギリギリだったので......。
――レッズレディースでも決して順風満帆ではなかったですよね。18~19年はケガに泣かされっぱなし。ようやく、去年レギュラーに定着し、リーグ優勝、ベストイレブン選出となりました。
塩越 私はチームに合流できず、けれど、チームはどんどん勝ってゆく。焦りがあったし、素直に勝利を喜べない自分がいましたね。ただ、試合に出られなかったときに裏方を手伝って、チームというのは試合に出る選手だけで成り立っているわけではないことを改めて学べました。それと森栄次監督(現在・総監督)にかわって流動的なパスサッカーを目指すようになったことで、私自身うまくフィットできたんです。そこからは波に乗れました。
――高倉麻子監督(当時)に選ばれた理由は、やはりその好調さを買われたからですか? 事実、五輪直前の6月10日、ウクライナとのテストマッチでも2得点を決めましたよね。
塩越 高倉さんは、メンバー選考についてずっと悩んでいたと思います。やっぱり、本大会のメンバーというのは人数が限られていますし。それでも、高倉さんは毎回キャンプには呼んでくれるし、レッズレディースの試合にも度々足を運んでくださった。私のことを前向きに考えてくださっているのかなと。だったら、私にはほとんど経験がないぶん、失うものは何もないということで、思い切りの良さをアピールをしました。
――いざ、本番を迎えて、初戦はカナダでした。結果的に金メダルに輝いた強豪国です。
塩越 これが世界なんだと。衝撃的でした。初戦ということもあり、手探り状態で。もちろん、事前にカナダの戦い方については映像でスカウティング、チェックもずいぶんやりましたけど、いざピッチの上に立って対峙してみたとき、「ああ、やっぱり世界は凄い」と。
――緊張はしましたか? 無観客試合ということもあり、気持ちを作るうえではどうでしたか?
塩越 緊張はそこまでなかったですね。プレッシャー云々というよりも、とにかくチームのために走ろう、目の前の相手を抑え込もうと。ただ、無観客というのは、気持ちを高めるとか雰囲気作りという点では正直難しかったですね。どうしても練習試合的な感じで。
――世界の壁を痛感させられたというのは、もっと具体的にはどんな点でしたか?
塩越 私が試合に出ていたところでいうと、イギリスですね。パワーもスピードも、自分が予想していたよりもはるかに強烈で。なでしこジャパンというのは、元々パスワークや組織だったプレーが持ち味なんですが、イギリスの場合はその2点に加えて、力強さと速さを載せた感じでした。なかなかボールは取り切れない、パスも回せない。悔しかったです。
■これからのなでしこジャパンに必要なもの
――そもそも、高倉さんが東京五輪で掲げていた戦術的なテーマは何だったんですか?
塩越 "なでしこジャパンらしさ"というのは、ことあるごとに言われていて。要は、ひたむきで献身的なプレーを前面に出したパスサッカーです。練習メニューもそれに特化した内容が多かったですね。スピードがある相手にパスで崩すのはリスキーでもあるけど、そこは恐れずにパスを回していこうと。
――ただ、そのようなサッカーが、勝ちに行く気持ちが足りないと批判が目立ちました。事実、結果にも結び付かなかった。それを受けて、塩越選手が考える今後のなでしこジャパンの課題は何でしょうか? 例えば、パスワークでもそのスピードの向上に努めるとか。
塩越 そうですね、小刻み良くワンタッチでワンツーパスですとか、そういったプレーで相手を崩していくのは絶対に必要だと思います。あと、私ももちろんそうなんですが、1人1人がパスだけじゃなくて、パワーやスピードもレベルアップしていかないとダメですね。
――正直、12年のロンドン五輪での銀メダルから9年の間に、日本はガッツリ研究されてしまって、世界のレベルがぐっと上がっていったのではないかと思うですが......。
塩越 はい。これは、メンバー皆とも話していたことなんですが、日本もパスサッカーでは勝負しづらい状況になってきていると感じます。11年になでしこジャパンがW杯で優勝して以来、他の強豪国は元々持っていたパワーとスピードを元に、日本のお家芸であるパスサッカーを取り入れ始めたことによって、今に至っているのではないかと。だったら、日本もパワーとスピードを向上させれば、ちゃんと勝負できると思うんです。
――新型コロナの影響で1年遅れましたが、あらためて、自国開催の五輪に出場できた率直な感想は?
塩越 決して、1年ずれて良かったとは思いませんが、私にとっては幸運でした。去年から調子を上げてきたわけですから、2020年開催だったら、絶対に選ばれていないです。ずれていなければ、今の自分はいなかったです。
五輪に出場したことで、自分はまだまだ未熟だというのがよく分かったと同時に、もっと上のレベルでサッカーが出来たら、自分が味わったことのない楽しさが発見できるはずだという考えも芽生えています。今、すごく自分の意識が積極的になっているんです。(後編に続く)
■塩越柚歩(Yuzuho SHIOKOSHI)
1997年11月1日生まれ、埼玉県出身
身長166㎝
趣味=ショッピング、カフェめぐり
〇ドリブル、ミドルシュートを得意とする攻撃的MF。
なでしこリーグ2020ベストイレブン、東京五輪2020女子サッカー代表。
公式Twitter【@yuzuho_19】
公式Instagram【@yuzuho_shiokoshi19】
■WEリーグでの試合情報、観戦詳細などについては
三菱重工浦和レッズレディースの公式サイト
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